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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)370号 決定

被疑者 朴英吉

主文

原裁判を取り消す。

一、本件準抗告申立の趣旨と理由

(一) 原裁判を取り消す。

被疑者に対する勾留状の発布を求める。

(二) 罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある。

勾留について刑事訴訟法六〇条一項二、三号の要件がある。

逮捕手続になんらの違法もない。

二、当裁判所の判断

一件記録および職権によつて取調べた別件記録を検討すると、別紙記載のとおり、本件準抗告の申立は理由があると認められるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項に則り主文のとおり決定する。

(別紙)

(一)被疑者は、別件の強姦事件により昭和四八年三月二八日に発付された逮捕状によつて同年四月五日逮捕され、次いで同月八日同事件(以下別件と称する)により勾留されたが、その後同月一二日告訴が取消されるにおよび、同月一四日別件については不起訴処分に付され勾留期間の満了をまたずに即時身柄を釈放された。ところがこれより先、別件を捜査中の警視庁は本件の聞込みを得て、別件の逮捕以前である同月二日に本件の被害者から告訴をうけ、詳細な告訴調書を作成し、同月一一日には被害者立会のもとに実況見分を了し、翌一二日別件の勾留が同月一四日に終了することを理由に東京簡易裁判所裁判官から本件について逮捕状の発付をうけ、別件についての身柄が釈放されるやただちに本件により被疑者を逮捕するにいたつた。

(二)ところで、本件についての勾留請求を却下した原裁判官は、その理由として前述のとおり、別件により被疑者を逮捕する以前に、本件についても既に告訴を得ていたものであるから、かかる場合には、別件による勾留中に本件の捜査が不可能ないし著しく困難な事情が認められない限り、別件による勾留の終了をまち、さらに本件により逮捕することは、いわゆる不当な逮捕のむし返しであつて違法であり、これを前提とする本件請求もまた違法であるから却下されなければならないとする。

しかしながら、もともと逮捕・勾留は原則として事件毎になされるものであるから(事件単位の原則)、たとえば、(1)別件につき同時捜査が可能であつて、一個の逮捕の基礎事実に含ましめることができるにもかかわらず、もつぱら逮捕期間の制限を潜脱するために罪名を小出しにして逮捕をくりかえすとか、別件による身柄拘束中に本件によりすでに逮捕状を得て、いつでも執行できる状態にありながらあえてその執行を留保し本件についてなんらの捜査をすることなく漫然とすごしていたにもかかわらず、別件の釈放を待つて本件の逮捕に踏みきるなど逮捕権が著しく濫用されていると認められる場合、および、(2)前の身柄拘束の期間中(別件による勾留中)に、捜査の重点がもつぱら本件にむけられ、本件の被疑事実が当初から逮捕・勾留の基礎にかかげられていたのと実質的に差等が設け難いような場合(とくにいわゆる別件逮捕の場合)のような例外を除いては、すでに身柄を拘束されている同一被疑者について、その別件と併合罪の関係にある余罪により再度逮捕・勾留することは許されるとしなければならない。

(三)そこで右に鑑み、本件をみるに、なるほど本件は別件による逮捕の以前に既に余罪として発覚しており、かかる場合には、別件の逮捕にあわせて本件も逮捕するとかあるいは別件の勾留中にできるだけ本件についても捜査をとげて被疑者の身柄拘束の期間を短くするよう配慮することはもとより必要なことではあるが、しかし、これに反したからといつて本件の逮捕がただちに違法になるものではなく、また別件および本件の罪質や被疑者の余罪やその後の捜査の経過に照しても、本件がもつぱら逮捕・勾留の期間の制限を潜脱するために罪名を小出しにして逮捕をくりかえしているとも認められない(なお、本件の逮捕状を得て直ちに執行をせずに別件の勾留期間の終了を待つたという点についても勾留期間の延長等の際に考慮すれば足りるもので、これをもつて本件の逮捕を違法とすることはできない)。

そのほか、本件逮捕を違法としなければならない事由がみられないから、不当な逮捕のむしかえしであるとして勾留請求を却下した原裁判は違法であつて、その取消しを免かれない。

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